福祉の現場から④

—高田馬場の視覚障害者支援—

前回に引き続き東京ヘレン・ケラー協会についての記事です。今回は点字出版所で働く塚本所長、雨宮さん(晴眼者)、青木さん(視覚障害者)の御三方へのインタビューと出版所内の見学の様子を公開いたします。

※この記事は2022年12月19日時点のものです。

職員の方へのインタビュー

  • どのような経緯で現在の仕事をされているのですか

雨宮:元々書店員をしており、17年働いていました。点字出版所では3年働いています。出版や情報、書籍に関わっていたため、それを生かせる仕事をしたいと考えていました。また、福祉関係の仕事も視野に入れていました。で、障害のある方に必要な情報を届ける仕事が出来ればと思い、点字出版所の求人を見て応募しました。

青木:15年くらい民間企業で事務職の仕事を行っていました。当時はエクセルのファイルを扱ったりしていましたが、晴眼者が従事した方が早い場合もあるので、普段使っている点字を仕事に生かしたいと思っていました。また、点字出版所で点字を読める人が少ないという話を聞いたので、転職しました。ここでは触読校正(点字印刷物を指で読んで文章を校正する)の仕事をしています。

  • この仕事に就く前と後で視覚障害者に対する認識はどのように変わりましたか

雨宮:これまで自分の周りには視覚障害者の人はいなかったので視覚障害者に対する認識は大きく変わりました。まず点字を読む速さに驚きました。我々が文字を読むのと変わりなく読むのだということを実感しましたね。そして記憶力がいい人が多いように感じます。校正する作業においては、晴眼者が引っ張るというより、触読校正者が主導で作業します。3年ほどこの仕事を続けていますが点字に関しての知識はまだまだ足りないので、触読校正者を頼りにしています。また。仕事が終われば、一緒に駅まで帰る間、普通にテレビの話題など話をしたりしており、我々晴眼者と変わらないと思いました。以前は自分の中にイメージや先入観があったのだと思うのですが、こちらが配慮して、視覚障害者には聞かない方がいいと考えていたこともありましたが、今ではざっくばらんに話をしていますね。

校正の様子
  • この仕事でやりがいを感じるときはありますか
膨大な量の出版物の制作に関わっている

青木:現在は主に自治体の広報の仕事を行なっています。月ごとに決められた量の仕事があり、常に時間に追われています。そして最近は郵便の翌日配達や土曜日配達がなくなったことで、早く仕上げなければならず、納期を守ることに精一杯でやりがいを感じる時間がないのが正直なところです。

所長:特に選挙公報の点訳を行うときは短期間で膨大な仕事をしなければなりません。残業をすることも多いです。住民に必要な情報を届けるというのは大きなやりがいであり責任を感じるところではあります。

雨宮:雑誌を作っていると読者の感想が届くなどフィードバックがあって嬉しいです。雑誌の中の料理などの特集記事を楽しみにしている読者も多く、手紙などをもらうこともあります。

  • この仕事で課題だと思うことはありますか

所長:諸物価が高騰していますが、社会福祉法人としてすぐに値上げができるわけではありません。自治体広報や雑誌、教科書、選挙公報などが主な仕事であるため官公庁からの受注が多く、現在(取材時点)来年度の見積もりを行なっていますが大きな価格改定は難しいです。所長としては職員により良い待遇で働いてほしいと思っています。点字の出版物や印刷物に関して困っていることや相談したいことがあれば、ぜひ点字出版所に声をかけてほしいですね。

  • 職場の環境について教えてください

職員は男性16人で女性15人の総勢31名で男女はほぼ半分ずつ。そのうち全盲が5人、弱視が1人で視覚障害者は6人が働いています。

  • 行政に対するご意見があればお聞かせください

所長:地方によって視覚障害者への情報提供に差があると考えています。東京都は広報や都議会だより、選挙公報など点字の注文は多く、視覚障害者への情報提供に積極的です。しかしそうでない地方の自治体も多いと思います。全国で視覚障害者にとっての情報格差がないように国がバックアップしてほしいですね。仕事が増えれば我々も忙しくはなりますが、嬉しいです。

  • 晴眼者に視覚障害に関して知ってほしいことはありますか
印刷所内の写真。ここで制作されたものは多くの視覚障害者の生活を支えている。

青木:視覚障害と一言で言っても多種多様です。全盲の人でも生まれた時からなのか、子供の頃見えなくなったのか、大人になってから見えなくなったのか。光がわかる人、色の区別ができる人、目を近づけたり拡大読書器を使ったりすれば文字を読める人もいます。弱視の人でも中心が見えない人も、周りが見えない人もいます。明るいところが苦手な人も、暗いところが苦手な人もいます。このように視覚障害の状態は人それぞれです。視覚障害者だからこうだと決めつけるのは不適切だと思います。やってあげることだけが親切ではありません。工夫すれば視覚障害者でも出来ることはたくさんあります。なるべく人の手を借りずにやりたいという気持ちもあると思いますし、全てに手を借りるのではなく、自分で出来るようになるために手を借りたいと思っていることも多いです。なんでもやってあげれば良いというわけではないということを分かった上で接してほしいですね。

雨宮:良かれと思って何でもやるのではなく、勝手に出来ないと決めつけず、できそうなことを考えて、直接聞いてみるといいのではないでしょうか。当事者に実際に聞いてできるかできないかの判断を委ねることが必要であると思います。また、何が起こって何をするかなど情報を共有することも大切です。

出版所見学

点字出版所の所長及び職員の方にお話を伺った後は、併設する点字出版所を見学させていただきました。点字出版所では、独自に編集して発行する月刊誌『点字ジャーナル』、月に2回発行する生活情報誌『ライト&ライフ』とともに、選挙の際の点字公報や自治体から依頼された広報、点字教科書等を受注して印刷を行っています。当出版所は国内で最大規模の点字出版所であると述べられていました。また日本ではここにしかないとおっしゃる大型の点字印刷機も特別に見せていただきました。

点字印刷機。日本にはここにしかない。

点字出版物の製作過程は主に5段階に分かれていました。

  1. 点訳…点字製版士が墨字(活字)の原稿を見て、パソコンで専用の点訳ソフトを使って、入力・編集する。
  2. 校正…晴眼者は墨字の原稿を確認し、視覚障害者が点字を触読して読み上げ、誤字・脱字をチェックする。また、レイアウトの調整などを行う。
  3. 製版…自動製版機を使って亜鉛板を製版する
  4. 印刷…二つ折りの亜鉛板の間に紙を挟んで、ローラーに通して 印刷する。
  5. 製本…一冊一冊手作業で表紙を付けてホチキスで綴じたり、背を糊付けしたりして厚手の表紙を付けて本にする。

これらの工程を経て作られた製品は日々視覚障害者の方の日常に役立てられています。

取材を終えて
以前から障害者福祉に興味を持ってはいたものの、関連する授業を受けたり本を読んだりしただけで詳しくなったつもりでいました。しかし、取材を終えた今はまだまだ知らないことばかりなのだと痛感しています。
実際に施設を見学し、職員の方に話をうかがったことで私の視覚障害者や福祉に対する認識は大きく変わりました。私たちが思いもよらないことで誰かの日常が妨げられているということ。そのようなバリアーを取り除くために様々な団体が多種多様な支援を行っていること。それでも理想通りの支援を行うことは簡単ではないのだということ。教科書だけでは分からない、たくさんの気づきを得ることができました。
ここで学んだことはこれからの会活動に生かすとともに、障害者と共に生きる社会の一員として日常生活の中でも役立てていきたいと思います。最後になりましたが、取材に協力してくださった日本点字図書館様、東京ヘレン・ケラー協会様、本当にありがとうございました。
取材に協力してくださった点字出版所の皆様、本当にありがとうございました。