幹事長インタビュー(島倉奏太)

2022年8月から1年間、第151代幹事長を務めた島倉奏太会員にインタビューを行いました。聞き手は副幹事長です。

・自己紹介をお願いします。

 埼玉で生まれ、2歳からは東京都武蔵野市で育ちました。地元の小学校を卒業後は中高一貫の男子校に進み、主には演劇部に所属していました。演劇部はもともと先輩が全員引退しており休眠状態であったところ、中学1年の文化祭をきっかけに同級生たちと再興し、引退まで5年間副部長を務めました。トランプ大統領が当選したアメリカ大統領選をデフォルメした作品や、ポパーの批判的合理主義のようなメッセージを込めた作品など、無意識ながら社会派の演劇を作っていたように思います。

 大学入学後は雄弁会に入会し、1年後期から演練幹事を拝命しました。その後2022年8月の総会で幹事長に就任し、2023年8月に退任しました。

・雄弁会に入った理由を教えてください。

 雄弁会の門をたたいたのは、政治をあらゆる観点から自分ごととして学びたかったからです。もともと小学生の頃から時事ニュースに関心はあったものの、振り返ると高校1年の夏、3つの出来事がその後の人生を方向づける転機であったように思います。

 第1は、予備校のイベントに選抜いただき、中国の清華大学を1週間訪問したことです。ここでは日本の未来に対する強烈な危機感を抱くことになりました。たとえば、日本財団「18歳意識調査 第46回 国や社会に対する意識(6カ国調査)報告書」(2022年3月24日)によると、「自分の国の将来についてどう思っていますか。」という質問に対し、「良くなる」と答えた者は中国で95.7%、日本で13.9%となっています。実際に中国の同世代の若者と話し、国の明るい将来を前向きに語る姿を目にしました。対して自分たちは、少子高齢化をどうする、度重なる自然災害をどうする、といったようなマイナスに対処する後ろ向きの話をしており、日本社会が抱える未来への閉塞感を実感しました。この経験は社会そのものに強い関心を持つきっかけになりました。

 第2は、社会科の先生とともに、東日本大震災の被災地である岩手県大槌町を訪れたことです。それまで東京で暮らしてきた自分にとって、全く違う構造の地域が、甚大な津波被害を受け、7年が経っても瓦礫が残っている様子は衝撃的なものでした。地域の方のお話を聞いていく中で、社会課題を解決する手段としての政治の役割を身に沁みて感じました。同時に、教科書や写真で見るだけでは不十分で、現場を訪れることの大切さを学びました(今でも「定点観測」と自称して東北地方の被災地を毎年訪れています)。後にこの経験は入会後初めての弁論で取り上げることになりました。

 これらの経験から政治を学びたいと思うようになった自分は、第3の出来事である、雄弁会との出会いを迎えることになります。出会いは早稲田祭の中で開催された第42回大隈杯争奪雄弁大会の場でした。歴代総理のプロフィールをWikipediaで調べていたときに目にした「雄弁会」の三文字が目に止まり、弁論大会の会場を訪れたのです。そこで弁論をしていた雄弁会の弁士を見て、自分もこの場に立ちたいと考えました。あらゆる観点から政治を学び、仲間とともに議論し、さらには「自分はこう考える」と自分ごととして政治を語る場として、雄弁会に惚れました。こうして大学受験の第一志望を雄弁会に設定し、入学後すぐに雄弁会の門をたたくことになります。

・雄弁会の良さについて教えてください。

 雄弁会は、議論をするための「場」としてこれ以上ないほど恵まれた環境であると考えています。

 まず挙げるべきは、人材の質の高さです。雄弁会員は一人一人が独自の強みを持っているように思います。特定の分野への深い知見を持っている会員も多くいますし、幅広い分野に対する洞察力や的確な調査力といったソフトスキルに長けた会員もいます。また自分の強みについてはさらに高みを目指す必要性を感じ、モチベーションにもなっています。

 こうした中で、いつでも議論できるという会内の雰囲気によって、各々の強みが相乗効果をもたらしているように思います。社会を主語に議論する機会は日常には少なく、ゼミでの討論や就活のグループディスカッションといった、議論する場として意図的にセットされた空間にしかないように思います。そうした中で雄弁会という世界は、あらゆる話題に対して自発的に議論が生まれ、示唆を得ることができる空間として魅力を持っています。

・新入生へのメッセージをお願いします。

 新入生に、知識や経験を求めることはありません。雄弁会員の軸である会旨に「情熱と実践力とに溢るる学生の集まり」とあるように、この2つだけを持ってきて、雄弁会という場を活用してほしいと思っています。その上で私たちと、あるいは同期になる新入生たちと議論をしましょう。その際、議論をするためのマインドは整えていただきたいと思います。自己主張だけでなく相手の話を聞くこと、自分の主張を絶対のものとせずに客観視すること、を心がけてください。

 かつて「政治家養成サークル」と呼ばれた雄弁会ですが、その現代的意義は変わってきています。実際に出身者も政治家になるのは極めて少数です(とはいえ大学全体での割合と比べると圧倒的に多いですが)。何者かになるために雄弁会に入るのではなく、雄弁会に入って何をしたい、ということを考えていただければ初めは十分であり、入会後の活動を通して各々の「雄弁家」を定義し、目指していただきたいと考えています。入会して1年経つ頃には、ここは自分が雄弁会で一番詳しい、という分野を持てると良いでしょう。新歓と仮入会期間を通して、その原石を見つけられるように私たちもサポートします。

 昨夏に幹事長を退任して半年が経ち、最後の新歓の直前にこのインタビューを執筆しています。卒業まで残り1年となった現在、雄弁会「に対して」何ができるかを考える毎日です。卒業後は総合コンサルティング企業の中の官公庁・自治体に対する支援を行う部門に就職する予定です。4年間の経験を糧に「発展して止まざる日本国家並びに社会の進運に寄与せんとする」雄弁会会旨を社会で実践し続けたいと思います。残り短い雄弁会生活ではありますが、一会員として新入生の皆さんと議論し、共に高め合える日を楽しみにしています。